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ノンフィクション小説「三年ぶりの甲子園」
「電話が震えた」
商談中の男は、着信音をマナーモードにし、時折震える携帯電話に気を取られる事なく商談を終えた。
男は、着信履歴を確認し、見慣れない名前に驚く。
「兄携帯」
男には、3歳年上の兄がいる。この兄は昨年まる一年掛けてアフリカ大陸を自転車で縦断した経歴をもっている強者(つわもの)だ。
そんな兄からの受信なので、取り急ぎ受話器をとった。どうやら、急遽翌日の甲子園で行われる阪神対広島のチケットが余ったらしく、誘いの電話だった。
男は、甲子園自体3年ぶりでしかも、兄と二人で甲子園に行くのは20年ぶりなので、ぎこちない返事で誘いに乗った。

目覚めると、霧雨のような小雨が降っていた。男はあの時のテルテル坊主を20年ぶりに思い出した。

午前中の打合せを終わらせ、一路甲子園に向かった。ガタンゴトンガタンゴトン。
朝から降っていた雨はとうとう降りやまず、3年ぶりの甲子園は北風が吹く気温10度の中でプレイボールになった。

男の座席は、ライト側センターバックスクリーン横上段から数えて3段目という限りなくホームベースから遠いところで応援をすることになった。
阪神ファンは雨が降っていようが全く関係が無く、応援歌を大声で歌っていた。
滅多に応援にくることのない男は、応援歌を必死に聴き取り、自分も歌おうとするがみんな大声で滑舌が悪いので結局最後まで誰一人覚える事が出来なかった。

ラッキーセブンがやってきた。「おれは今まで、一度もジェット風船を買ったことがない」と誇らしげに語る男の兄は、アフリカ縦断時に使っていただろうワイルドなカッパにくるまり、自宅からマイ魔法瓶に入れた日本酒で血液を酔わせていた。
男は、最後までその誇らしげに語った言葉の意味が分からなかった。

試合は阪神のペースで進み、3年ぶりの甲子園は阪神の勝利で幕を閉じた。
男は、気温が低く体の芯から冷え切ったのか、久しぶりの甲子園を勝利で飾れ感動したのか、最後に一言つぶやいた。
「体が震えた」
ノンフィクション小説「三年ぶりの甲子園」_f0006429_1562281.jpg

by hanajiro_head | 2006-04-16 01:56 | 日記
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